〒344-0031 埼玉県春日部市一ノ割1-7-44
労働局は、各都道府県単位に一つ設置され、労働基準監督署や公共職業安定所などの上部組織になっています。埼玉県の場合は、埼玉労働局になります。
関東では、東京労働局、栃木労働局、群馬労働局、茨城労働局、千葉労働局、神奈川労働局となっています。
労働局は、だいぶ知られるようになってきていますが、知らない場合でも、労働基準監督署に相談に行った際に案内されることで知る場合もあります。
労働基準監督署に労働相談に行って、労働基準監督署が直接解決することが難しい労働問題などは、労働基準監督署が、「労働局へ行って話してみたら」とエスカレーター式に案内されることにもなっています。
労働問題・労使紛争が発生する原因として、法令や判例を知らなかったり、誤解に基づくものが多いことを踏まえて、法令の知識や労働判例などの情報を提供することを行っています。
これは、紛争に発展することを未然に防止しようとしたり、労働問題を早期に解決したりすることが目的になっています。
しかし、もうお気づきかと思いますが、法令や判例の情報を入手できたからといって、労働問題・労使紛争が解決に向かうとは限りませんね。
入手した法令や判例の規制や考え方を紛争相手である会社に通知したからと言って、会社が話し合いに応じたり、誠実な姿勢に変わったり、そう簡単にはいかないのが、労働問題・労使紛争です。公的機関に相談に行くレベルになっている場合の労働問題・労使紛争は、一筋縄ではいきません。
もう一つ、法令・判例の情報や知識を教えていただけたとしても、それをどこにどのように活用していくのか、あてはめと運用が労働問題・労使紛争では非常に重要になります。その点がどこまで可能なのかは、労働局の相談レベルで対応するには限界があります。
法令や判例などの情報提供は、労働相談の一貫として行われます。もし、行かれる場合は、一つの関連情報として受けとめておきましょう。
労働基準監督署が「労働局で話してみたら」、そのように言う理由はそれだけではなく、労働局では、紛争解決の援助をすることが業務の一部となっていることにあります。
援助といっても、労働問題や労使紛争に対する助言・指導が内容です。
形式的には、労働問題や労使紛争の問題点を指摘し、解決の方向を示唆することで、労働問題や労使紛争が自主的に解決することを促進することがその制度内容です。
賃金、労働時間、休日などの労働条件に関する法違反を是正する労働基準監督署とは大きく異なります。あくまで、労働問題(労使紛争)の当事者に対し、話し合って解決することを促すだけで、それを強制することはありません。ただし、労働基準監督署よりも取り扱う労働問題の範囲は広い点はメリットです。
具体的には、
労働局の助言の実例
事案の概要と問題発生からの過程 | Xさんは、ある日会社(Y)の上司に呼ばれて退職勧告を受けたのですが、思い当たる理由がな拒否したところ、諭旨解雇を通告されました。退職勧告の理由は、「社内のコミュニケーション能力が著しく劣る。作業のやり方が悪い。」の2点とのことです。Xさんは、納得いかずに、退職勧告理由書を書面で明示するよう求めたのですが、Yは対応しなかったので、何度か話し合いを繰り返したものの双方の主張は変わらず、諭旨解雇になったようです。Xさんは、労働基準監督署に相談に行こうとしましたが、年末近かったため年明けにしようと思い、待ちきれずに、労働組合に相談にのってもらいました。ユニオンがいうには、解雇権乱用だと思われるとのことでした。ユニオンは、ほかの労働相談で見解を聞いてくれとうので、年が開けて労働基準監督署と労働局へ行くことになりました。最初に労働基準監督署へ相談したのですが、「その理由が解雇に該当するのかどうかは労働基準法でははっきりとは言えない」と言われ、「労働局へ相談して、場合によってはあっせんもできるるので、言ってみたらいいですよ。」ということになりました。 |
労働局の助言・相談内容 | そこで、労働局に相談に行きました。労働局は、「その2つの理由で諭旨解雇するのは行き過ぎのように思うけど、就業規則の解雇事由の取り決めがどうなっているかだね。可能なら資料を会社に行って入手して、あっせんで争ってみたら。それがいやなら、もう一回、話し合ってみたらいいよ。」というものでした。 |
労働局のコメント | Xさんからの一方的な相談だけでは、Yが解雇するわけがわからず、Xさんの主張を裏付ける資料も乏しく、一般論を説明しました。退職勧告を受ける受けないはXさんの意思次第であること、諭旨解雇の効力については、就業規則に諭旨解雇のことをどのように規定しているかによって、解雇権乱用にもなること、就業規則の解雇事由は限定列挙事項なので、これに記載されていない理由による解雇は解雇権乱用になる可能性があることです。再度、組合に相談してみるか、Xさんが、職場復帰を望んでいないので、あっせんなどで、退職金や和解金の額によって落としどころとするのがいのではないか。 |
もうおわかりかと思います。労働局は、労働基準監督署の上位組織ではありますが、労働問題に関しては、労働基準監督署のように法違反を是正することを直接の職務としません。
よほど悪質な場合を除いて、1件1件の労働問題・労使紛争の解決のために具体的に動いてくれることもしません。
ただし、事業主(会社)に指導することまでは業務になっていますので、労働局の指導で、労使紛争や労働問題が解決できないということではありません。事実関係がはっきりしており、違法性が明確である場合などは、それ相応の指導を会社側に行う場合もあります。
労働局の指導の実例1
事案の概要と問題発生からの過程 | Xは、コンピューターソフトの開発を行う会社Yに営業職として3か月間勤務したが、内臓疾患で障害者認定を受けていることと履歴書に職歴の記載漏れがあったことが発覚し、経歴詐称として懲戒解雇された。しかし、障害を悪化させるような業務内容ではなく、また、障害が理由で仕事に支障がでたこともないので、懲戒解雇を撤回してほしい旨の助言・指導を求めた。 |
Y(会社)の話 | Xは、障害者の認定を受けていること、手術を数回受けていることを面接時に言わず、また、履歴書に職歴のすべてを記載していないことも判明した。健康状態は採用決定の重要な要素であり、営業職の場合はなおさらである。営業は、顧客からの信頼が大切で、うそをつくような性格の者は会社には残しておけない。就業規則の「重要な経歴を偽り、そのほか不正な手段によって入社した者は懲戒解雇に処す」という規定にしたがって処分したことに間違いはない。 |
労働局の指導内容 | Xは、他の営業職の労働者と同条件で仕事をこなしており、仕事に支障がでている身体上の問題はなく、業務上のトラブルもない。Yにおいてその労働条件が乱されて、健全な企業運営を阻害されるなど、企業秩序に対し具体的な損害や侵害を及ぼした事実は認められない。Yに、Xに対する懲戒解雇処分を取り消すことを指導した。 |
労働局の指導の実例2
事案の概要と問題発生からの過程 | Y警備会社に勤務しているXは、B社に派遣され、管理室で勤務していた。B社の社員たちからセクハラを受けたので、B社に相談したが、適切な対応はなされないうえ、B社からの退職勧奨を拒否すると、Y社から解雇された。復職を求めて労働局の助言・指導を求めた。 |
Y(会社)の話 | B社とXはセクハラの件で念書を交わしていると聞いているので、改めて話し合いに応じる必要はない。解雇は、Xのために、YがB社から派遣を撤退せざるを得なくなったためである。 |
労働局の指導内容 | YがXに対して行った解雇には合理性がないと思われることから、Yは、Xと再度話し合うことを指導した。 |
労働局の職務は、
自主的な話し合いを促すことです。
自主的な話し合いを促す方法として、
労働問題・労使紛争の問題点を指摘する。
労働問題・労使紛争の解決の方向を示唆する。
ポイントは、問題点を指摘し、解決の方向を示唆するにすぎないことです。
この点をよーく頭に入れてかかりましょう。
労働問題の当事者である相手の会社に、書面を出してくれるわけではなく、書面の作成をするわけではなく、そのアドバイスをするところでもありません。
指導レベルにとどまるため、労働局の指導内容を会社が遵守しない場合もあります。
いったん、指導内容を遵守したあとで、また、労働者を退職に追い込むなどが考えられます。
当事務所に労働相談に訪れる相談者には、労働局に相談に行ってから訪れる方が多いのですが、経験からお話ししますと、事実関係や事実を裏付けるものがはっきりしなかったり、違法性があるかどうか微妙なものについては、労働局は最後に「まあ、うまく話し合ってみてよ。」と言うケースがかなり多いようです。
ただ、上記の指導の実例のように、はっきり事実が見えるものについては会社側に指導することまでは行うことはあります。しかし、会社が労働局から指導を受けただけであり、労働者と直接に労働問題の解決内容を合意したわけではないことは、頭の片隅に置いておきましょう。
労働問題の当事者である方は、「話し合ってよ」と言われると「何を言っているの」と言いたいようです。「話し合えるならば、労働基準監督署や労働局に、わざわざ来て労働相談しないよ。」「会社が話し合いに応じないし、応じても紳士的じゃないし・・・。」
そもそも、解決の方向性を示唆するだけで、あとは話し合ってと言われても、労働問題・労使紛争は、簡単に解決しないケースがとても多いのです。相手があることだからです。
労働局は、基本的には、机を挟んで、話を聞き、「問題点は××だね。」「こんな方向で解決を考えてみたら。」「まあ、うまく話し合ってみてよ。」というところだと思ってください。紛争解決自体が自主的に解決することが前提になっているからです。
※ 事実、その裏付け、違法性がはっきりしている場合は、助言・指導で解決する可能性が出てきます。
労働局は、それ自体は意義のある行政機関なのですが、助言・指導については、あまり期待すると、ちょっと違うことになりますので、労働局へ行こうとしていた方は、心してかかってください。
労働局か、労働基準監督署か、どこに労働問題を挙げるのがいいのか迷ったり、わからなかったりする場合は、事案によって異なりますので、至急ご相談ください。
労働局の機能の一つにあっせん・調停による紛争解決があります。当事者間で解決が困難になった紛争では、手軽に利用できることから、利用件数は毎年7,000件と相当数にのぼります。
先に触れました、労働局の労働相談、法令・判例の情報提供、助言・指導などのサービスとは異なり、実際に、主張を調整しながら具体的な解決を模索するのがあっせん・調停ですので、非常に意義のある業務であると言えます。
あっせん・調停は、労働局内に設置されている紛争調整委員会が実施します。
あっせん・調停は、公平・中立な第三者である労働問題の専門家(あっせん委員)が、会社(使用者)と労働者の主張を確かめて、当事者間の調整を行うことで話し合いを促進して、紛争の解決を図ろうとするものです。
双方から求められた場合には、解決のために採るべき具体的なあっせん案・調停案を提示します。
あっせん・調停で対象になるのは、募集・採用に関するもの以外で、会社と労働者の紛争であるものです。
調停は、さらに事案内容が対象となるか否かが問われます。最近では、労働施策総合推進法が施行となり、パワハラ事件が調停対象となっています。
あっせん・調停の特徴は
手続きが迅速で簡便で、専門家(弁護士・大学教授・社会保険労務士など)が担当し、非公開なのでプライバシーが守られることです。
あっせん・調停によって、紛争が解決した場合は、合意による紛争解決になり、受諾されたあっせん・調停案は民法上の和解契約の効力をもつことになります。
また、労働者があっせん・調停を申請したからといって、会社が労働者に労務上で解雇などの不利益な取り扱いをしてはいけないことになっています。
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