賃金引下げ・配置転換等労働条件変更

 

労働条件といった場合は、広い意味で言えば、賃金や休日だけではなく、採用から退職まですべてを指していますが、よく問題になるのは、賃金賞与退職金配置転換などです。とりわけ、労働者のみなさんが、どこかに訊ねたり、調べたりしないではいられなくなるのは、賃金が下げられた場合、退職金が減額あるいは支払われない場合、納得できない配置転換をされた場合です。

 

 1 賃金引き下げ

 

会社が賃金を引下げる場合、必ず何か理由付けをしてきます。たとえば、業績不振能力不足スキルの達成度が低い経営状況が悪い人事評価が低いなどです。

 

そもそも、賃金は、労働の提供があれば必ず支給されるもので(ワーク・ペイの原則⇔ノーワーク・ノーペイの原則)、支給金額は労働契約で決まっています。契約上の金額を下回ることは許されないというのが大前提です。したがって、会社が賃金を下げる場合は、労働者の自由意思による同意がなければならず、同意なしの賃金引下げは違法性が高くなります。

 

賃金引下げの交渉過程では、会社がそのための情報を適切に公開し、会社と労働者が情報力の点で格差がないようにしなければいけません。また、交渉力の点でも会社が優位に立ちやすいことから、労働者の自由意思は尊重されなければならないものです。そして、賃金引下げでなによりも重要なのは、賃金引下げの必要性、引き下げられた賃金の水準・内容代償措置などです。会社は、労働者に対し、これらの情報を総合的に情報提供したうえで交渉しているのかどうかがポイントになります。つまり、労働者が一方的に不利にならないような賃金引き下げ交渉になっていたかということです。

 

都合のいい理由で、賃金の一部が支払われない場合があります。法律で決まっている公的料金(税金や保険料)や労使協定で決まっている項目に関する控除以外は、働いた分が全額支払われているかどうかを確認してください。もし、全額支払われていないと思われる場合は、どの分がいくら支払われていないかチェックしてください。賃金の全額払い違反の可能性があります。

 

人事評価による賃金の引き下げの場合、人事評価によって賃金が決定されるため、公正な人事評価であることが求められます。これは、労働法の基本である労働条件は対等に決定されなければならないことからも求められていますが、使用者の注意義務の点からも、公正に評価する責務があるとされています。したがって、人事評価を恣意的に行うことは、労働者に経済的損害を与えることになりますので、単なる賃金引下げではなく、人事権の濫用の問題にもなります。

 

普段から、給料明細書、賃金規程、人事評価表などを必ず保管することをお勧めします。人事評価がキーになると思われた場合は、会話を録音または手書きメモで残してください。

賃金引下げの話についても同様に、第三者がわかるようにできる限り証拠を残してください。

 

【事例】

意思確認をしないで行った賃金引下げ

会社が経営危機に陥り、管理職に対し20%の賃金引下げを通告した。その際、引下げの理由を十分に説明せず、意思確認を行わなかった。労働者からも特別に反対の意見も出なかった。労働者の自由意思に基づく同意はなかったとし、賃金減額が無効とされた(更生会社三井埠頭事件、日本構造技術事件)。

遡って減額された賃金

会社は、管理職に対し、ある月の半ばに、1日に遡って賃金を20%減額すると通告した。管理職は、すでに働いた分の賃金の減額は許されないと反論した。労働者の自由意思に基づいて既に発生した賃金債権を放棄したことが明確になければ、管理職が後に減額された賃金を受領していても、その同意は自由意思に基づくものとはいえないとした(北海道国際航空事件)。

他の項目と相殺されている賃金

働いた賃金との相殺は、労働者が自由意思で同意している場合でなければ適法とはいえず、その自由意思も、同意に至った経緯や態様、労働者の利益に即した自由意思による同意であることが客観的に認められる必要がある(日新製鋼事件)。

所定の人事考課手続きを経ないで行った減額

給与規程で定めた人事考課の手続きを行わないで職能給や業績給を減額したとして、労働契約・就業規則違反として違法とされた(金融経済新聞社事件)。

能力・成果主義人事制度による降格・減給

新たな人事制度に基づいて上司が人事評価を行いB以上の評価を得たが、本部管理部長が低い評価を行ったことが、主観的・恣意的評価による人事権濫用とされた(国際観光振興機構事件)。

 2 退職金の減額・不支給

 

退職金の問題と労働者の対応の仕方

退職金に関する問題は、退職金の減額支給または不払いに集約されます。一般に、会社は、勤続3年以上、あるいは、5年以上の要件を満たした場合に、退職金を支給するルールになっているケースが多いようです。

 

退職金は、支給するかどうかのルール、支給する場合の要件などすべて会社が任意に自由に決定できるもので、法律上の規制はありません。しかし、退職金規程があり、そこに規定されている場合には、契約内容になりますから、会社が規定する要件を満たす場合には、労働者は、退職金を受給する権利があります。

 

上記の基本を押さえた上で、もし、退職金を減額する、あるいは、退職金を払わない(退職金の不支給)と通知された場合は、退職金規程の退職金の減額・不支給の規定に該当するかどうかを確認してください。

 

一般的には、懲戒解雇退職後の競業行為業績不振などの理由を退職金の減額・不支給の要件として規定しています。所定の退職金の支給を受ける権利を主張するために、退職金規程をコピーしておくことをお勧めします。

 

退職金の性質と減額・不支給の考え方

まず、退職金は退職金規程に支給基準が規定されることで、労働の対価である賃金として認められます。賃金の後払いとしての性質があります。同時に、勤続年数や長年の貢献に応じて上昇する仕組みが取られていることから、功労報償としての性質もあります。

 

したがって、退職金規程に減額・不支給の規定があっても、在職中の労働に対する功労を抹消または減殺してしまうほどの著しい背信行為があった場合でなければ、減額・不支給は認められないと考えられます。つまり、仮に、労働者に退職金規程に該当する不良行為があったとしても、著しい背信行為と言えない場合は、退職金を受給する権利がある可能性があるわけです。

 

【事例】

競業行為と退職金支給

退職後6か月以内に同業他社に就職した場合は、退職金を支給しないとの規定は、労働の対償である退職金を失わせることが相当である顕著な背信性がある場合に限って有効である。会社(広告代理業)を退職後、広告代理業を自営したことは著しい背信性があったとは言えないとして、退職金が支払われるべきとされた(中部日本広告社事件)。

懲戒解雇と退職金支給

鉄道会社の社員が電車内で痴漢行為を行ったことで懲戒解雇を有効と認めたが、退職金不支給は、私生活上の行為に対する全額不支給は行き過ぎとして、3割の退職金の支払が認められた(小田急電鉄事件)。

 3 不当な配置転換(配転命令)

配置転換(配転命令)の違法性の問題は、ほとんど以下に挙げる内容に関するものです。

  • 業務上の必要性のない配置転換(配転命令)
  • 通常甘受すべき程度を著しく超える配置転換(配転命令)
  • 職種や勤務地が限定された労働契約における配置転換(配転命令)

特に最近は、パワハラと関連した不当な配置転換(配転命令)が多く見られますので、その場合は、多くのケースで業務上の必要性が認められないのにもかかわらず、配置転換(配転命令)を受けていることが多いようです。当然、労働者はどこか違和感があります。

 

また、必要な配置転換(配転命令)であっても、裁判例は、労働者への配慮を求めるようになってきており、配慮がみられない配置転換(配転命令)の違法性も検討の対象になり得ます。

 

「通常甘受すべき程度を著しく超える」とは、通常の労働者であれば、多少の不都合や不利益などがあっても従うことができるだろう配置転換(配転命令)の程度をいっています。これは、一概に一般論としては語れないため、事案ごとに個々の事情により検討せざるを得ません。

 

職種や勤務地が限定された労働契約の場合は、そもそも配置転換(配転命令)が許されません。会社がどうしても行いたい場合は、労働者の個別合意が必要になります。裁判例は、よほど明確でなければ、職種や勤務地が限定された労働契約であるとは認めない傾向にあります。

 

職種や勤務地が限定された労働契約かどうかは、契約実態をお聞きすることで判断できます。労働契約書、労働条件明示書、雇入通知書などを持参してください。

 

【事例】

職種限定と配置転換(配転命令)

アナウンサーとしての試験を受けて採用され、24年間その職務に従事してきた場合も、職種限定の労働契約ではなかったとされた(九州朝日放送事件)。

勤務地限定と配置転換(配転命令)

高卒で現地採用の労働者の場合でも、勤務地限定の労働契約が否定された(濱田重工業事件)。

病気と遠距離の転勤

神経症で1年3か月休職後に職場復帰し、まだ継続治療を要する労働者が旭川から東京への転勤を命じられたが、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が認められた(損害保険リサーチ事件)。

家庭の事情と配置転換(配転命令)

妻は共働きで、2人の子供はアトピーで週2回通院しており、将来的には両親の介護をしなければならない事情がある場合の東京から大阪の配置転換(配転命令)が、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があると認められた(明治図書出版事件)。

妻の病気と配置転換(配転命令)

妻が精神病にり患し、夫の単身赴任による回復目標の喪失と家事負担の影響からの不安があること、家族での転居でも主治医との関係による不安があること、老齢の母親の監視・介助があることなどから、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとされた。また、育児介護休業法26条による配慮が十分に尽くされていないことからも同様に判断された(ネスレ日本事件)。

病休後の嫌がらせによる頻繁な配転

病院で勤務する科長の看護師が、3週間の病休後に科長室勤務になり、3か月後に透析室、8か月後に再び科長室、3か月後に外科外来に配転され、この間の反省レポート作成に応じなかった事案では、2度目の科長室での業務は1週間程度で終わるものであり、科長室配転の必要性を否定し、違法だとしており、慰謝料を認めた。(全保連看護師配転事件)。

 ⇒ 労働条件変更と退職については、賃金、配転等労働条件変更退職タイプをご覧ください。

 

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